出生前診断の急速な普及
以前は35歳以上など高齢出産にあたる方に対して病院ではお話していましたが、今は年齢関係なく「出生前診断というものがあります」という説明をするようになりました。
妊婦さん側も35歳以上の方が希望されることが多かったのですが、今では年齢関係なく希望する妊婦さんが増えてきているのが現状です。
出生前診断を希望する妊婦さんが増加する背景
今は共働きが当たり前の時代。
病気や障害、染色体異常があり、今までのように働けない、今までのような生活ができないことなどがあっては困るのです。
子供が健康な子でなかった場合、今までの生活ができない可能性が高いことを皆知っているのです。
今までの生活ができると想定しての妊娠・出産です。
母親が働けなくなることはその家庭の経済面に致命的なのです。
「出生前診断で陰性=健康な赤ちゃん」ではない
「出生前診断を受けて陰性!赤ちゃんはこれで健康だと証明された!」
そう思う方がいるかもしれませんが、そうではないのです。
出生前診断をすれば100%元気で健康な赤ちゃんかというと、そうではありません。
産まれてみないとわからない病気、産まれてから何ヶ月か何年か経ってわかる病気は数えきれないほど存在します。
羊水検査をすれば100%大丈夫!
「クアトロテストやNIPTは母体の血液で調べるため100%正確ではないけれど、羊水を採って調べる羊水検査をすれば赤ちゃんの病気はわかるのでは?」
そう思う方もいると思いますが、羊水検査をしても3つの染色体異常(13、18、21トリソミー)しかわからないのです。
羊水検査で本来であれば1~22番染色体異常の全てがわかりますが、基本の検査では上記3つがわかり、その他の染色体異常を調べるには追加費用が1つ追加で2万円程するようです。
基本の羊水検査をすると15万円程度、追加で1つ調べると2万円となると全ての染色体異常を調べるとなると高額な費用が必要になります。
また、羊水検査はGバンド法、Fish法、マイクロアレイ検査と検査方法もいくつかあり、一つの検査方法で異常がなくても、違う検査方法で異常(逆位、転座、欠失、重複など)が判明することがあります。
単に「染色体異常」といっても、「〇番染色体異常」だけでなく逆位、転座、欠失、重複など様々なのです。
また遺伝子異常の場合は羊水検査では判明しません。
産まれてから精査を重ね、診断していきます。
助けが必要な子どもを育てていくには家族の負担が大きすぎる
私は助産師としても、4人産んだ母としても、先天性異常のある子どもの母であった立場としても、出生前診断に否定的な思いはありません。
なぜなら、今の令和の時代も病気や障害、染色体異常の子どもを育ていきやすい社会ではないからです。
母親が仕事ができない、簡単に外出できない状況、今の状態も将来も心配で不安で精神的にも身体的にも疲労は蓄積する一方です。
また、病気や障害、染色体異常の子どもは健康である子どもよりも入院は多くなることがほとんどです。
関東・関西・九州は完全看護である病院が1つ2つあるかもしれませんが、私が住んでいる四国に完全看護である小児科がある病院は2022年の時点で1つもなく、夜間のみの帰宅も許されず、24時間の付き添いが強制です。
病気の子どもの傍にいたくても、きょうだいがいる場合、極度の疲労が蓄積している場合、24時間は難しいのです。
せめて夜間だけでも、母親が家でしっかりと睡眠がとれたり、きょうだい児と関われる時間がとれるようにしなければいけません。
出生前診断で異常が判明した場合はどうするか…
このようなことから、安易に綺麗事だけで「産んで下さい」とは言えないのが現状です。
助産師として、お腹に宿った命には意味がある…そう言いたくても、産まれてきた赤ちゃんは社会で育てる体制が今の社会にはありません。
結局は「家族でどうにかしてください」あるいは「施設に入所してください」
この2つの選択肢しかないのです。
出生前診断をして何も異常がなければ「よかった…」で終わる検査ですが、問題は異常があったときです。
出生前診断を受け、陽性であった場合の、特に母親の精神的な問題はとても大きいと感じます。
そのため、安易に受けてはいけない検査だと思っています。
出生前診断の欠点を踏まえて、出生前診断を受けるようにして下さい。
大切なのは社会の改善
大切なことは、どんな赤ちゃんが産まれてきても社会で育てて行ける体制を作ることです。
どんな赤ちゃんも、産まれてこれた赤ちゃんの存在に感謝し、産まれてきた赤ちゃんが愛情を受ける権利があると思っています。
皆がまずは知ることから、そして産む決断をしたり、産む選択肢しかなかったとしても産まれてきた赤ちゃんが社会で守られながら愛されながら生きていける社会になることを望んでいます。